中村先生の部屋ドライマウスの治療

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  ドライマウスの原因が明らかになり、その治療が可能な場合には(例えば、糖尿病、貧血)、その原因疾患に対する治療を積極的に受けることが必要です。しかし、放射線照射後、加齢的変化などのようにその根治的治療(原因を除いて完全に治す治療)が不可能あるいは容易ではない場合には、ドライマウスの症状に対する対症療法(症状を緩和する治療)しかありません。シェーグレン症候群も病因や発症機序が完全には解明されていないために、残念ながら確たる治療の決め手がなく、一生の付き合いを余儀なくされています。しかし最近では、対症療法も格段に進歩していますので、治療効果をあげるためにも早期診断・早期治療が重要です。少なくとも症状が緩和できればQOL(Quality of Life)の向上につながりますし、乾燥に起因する合併症の予防にもなります。対症療法といえども、ぜひ積極的に治療を受けるべきでしょう。以下に、日常生活において留意すべきことや治療法の紹介をいたします。治療に用いる主なものを表6に示しています。

表6:口腔乾燥症の治療に用いる主なもの
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日常生活における留意点

  ドライマウスに対する治療の一環として、日常生活においていくつか留意すべき点があります。唾液腺は、頻回に刺激を受けて唾液の分泌を促されることにより、その働きがある程度良くなると言われています。そのため、食事はよく噛んでゆっくりと食べ、唾液分泌を促進するような食品(梅干し、レモン、酢の物など)を積極的に摂るように努めると良いでしょう。逆に、香辛料などの刺激性のものや口腔粘膜に付着しやすい食品は避けた方が良いでしょう。ガムや飴などをいつも口の中に入れている方がいますが、唾液腺を刺激することは良いのですが、糖分が含有されている場合には歯の齲蝕を促すことになるので注意が必要です。
口腔内の環境の向上も積極的に図るべきで、

といった歯科治療を定期的に受け、場合によっては十分な口腔衛生指導を受けることも必要かもしれません。

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ドライマウスそのものに対する治療

  内服薬では、セビメリン塩酸塩とピロカルピン塩酸塩が有効です。唾液腺は交感神経と副交感神経の二重支配を受けていますが、主な唾液分泌はムスカリン性アセチルコリン受容体を介した副交感刺激によります。この2つの薬剤は、唾液腺や涙腺に存在するムスカリン性アセチルコリン受容体に結合して分泌機能を促進します(アゴニスト作用)。副作用としては、嘔気や腹痛などの消化器症状や発汗などがあります。ただし、消化器症状は内服量を1〜2週毎に増量することにより回避することができ、図2に示しているようなステップアップ式投与法を行うと良いでしょう。有効性はかなり高く、「シェーグレン症候群に伴う口腔乾燥症状」に対して保険適応があります。

図2:塩酸セビメリンのステップアップ式投与法

  その他、植物アルカロイドや去痰剤などが用いられていますが、いずれも即効性はなく、著しい効果が期待できるものではありません。漢方薬は適応さえ合えば有効な場合があります。

  いずれの内服薬も、長期の服用にあたってはその有効性を確かめ、副作用に注意しながら継続すべきです。定期的(1ヶ月程度毎)に乾燥症状の有無や程度、唾液分泌量を調べ、効果がないのにむやみに長期連用することは避けるべきです。

  唾液の補充に用いるスプレ−式のエアゾ−ル製人工唾液は、少量で口腔内を持続的に湿潤させ、口腔粘膜や舌乳頭の萎縮を予防するのに有効です。舌の上だけでなく、舌の下や頬粘膜に噴霧すると効果が持続するようです。頻回に使用してもアレルギ−以外には主立った副作用はみられていませんが、特有の臭い、味、粘りが不快だとする方が多く、使用を止めてしまうことが多いのが問題です。就寝前だけでも噴霧しても良いし、また、冷蔵庫で冷やしてから用いると不快感がなくなることがあるので試してみると良いでしょう。

  その他、ゲルやスプレ−などの湿潤剤(写真17、18)、ガム(写真19)、タブレット(写真20)、シート(写真21)などもありますので、積極的に用いると良いでしょう。

写真17〜21
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ドライマウスに起因する合併症に対する治療

  ドライマウスに起因する合併症として、アフタ性などの口内炎、舌炎、口角炎などが良くみられます。また、真菌(カビ)の一種であるカンジダの増殖のよる口腔カンジダ症がみられることも多く、頬や口蓋の粘膜が赤くなっていたり、斑点状の白い物が付着していたりする場合がそうです。舌炎や口角炎の発症にもカンジダが関与していると考えられています。

  口腔内全体の疼痛やヒリヒリとした灼熱感がある、あるいは口内炎を生じている場合にはヒアルロン酸などを含む洗口液(写真22)が有効で、口腔環境の向上のためにも意義があります。アズレンスルホン酸ナトリウム・炭酸水素ナトリウムなどの非刺激性の含嗽剤も用いられますが、ポビドンヨ−ドは刺激成分が菲薄化した粘膜面に残留するので好ましくないようです。また、多くの歯磨き粉は刺激が強いので、痛みがある場合には非刺激性のもの(写真23)を使うと良いでしょう。口内炎に対しては、ステロイド含有の軟膏あるいは貼付錠や各種トロ−チも有効です。ただし、ステロイドを長期に使用する場合には、口腔カンジダ症を誘発することがあるので注意が必要です。

  口腔カンジダ症を生じている場合には、抗真菌剤であるアムホテリシンBのシロップやミコナゾ−ル軟膏が有効です。舌炎や口角炎に対してはステロイド含有の軟膏を用いることもありますが、前述のように、舌炎や口角炎の発症にはカンジダが関与すると考えられていますので、抗真菌剤の方が適応だと思います。特に、口角炎に対してはミコナゾ−ル軟膏が使用しやすく、有効性も高いようです。

写真22〜23
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シェ−グレン症候群の場合の注意点

  合併症がない限り、積極的な治療としては乾燥症状に対する対症療法のみで十分です。しかしながら、対症療法が必要でない場合でも、経過観察を定期的に行い、乾燥症状、唾液や涙液分泌量、血清学的異常などについて系時的に調べる必要があります。これによって、病気がどの程度進行しているかの判断が可能になります。また、常に腺外症状や他の膠原病の併発、悪性リンパ腫を含めたリンパ増殖性病変の合併に注意を払い、歯科医だけでなく内科医の診察を受けること必要です。

  シェ−グレン症候群の場合には耳下腺の腫脹や疼痛がみられることがありますが、その多くは抗菌剤の投与で治癒します。また、予防法としては、日常的に耳下腺マッサ−ジなどを行うことが有効で、前述の唾液分泌を促進する内服薬を積極的に服用すべきでしょう。しかし、腫脹がなかなか消退しない場合には、リンパ上皮性病変や悪性リンパ腫といった病変である可能性もあるので注意が必要です。

  眼の乾燥に対しては、人工涙液、点眼薬、保護用眼鏡などを用いたり、涙の鼻腔へ排出口である涙点をプラグで閉鎖したり凝固を行うこともあります。いずれも十分な有効性が示されていますので、必要に応じて眼科医に相談してください。

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